貝がら千話

モノ・ホーミーの貝がら千話

第86夜 「てるてる坊主」

第86夜 「てるてる坊主」 (二〇一九年五月二日) 子どもの頃、ぼくには相棒と呼ぶべき友人がいた。ぼくもそいつも、それぞれひとりでいるときにはどちらかと言えばむしろおとなしい部類の目立たない子どもだったけれど、二人一緒になると途端に悪ガキに変身…

第69夜「気のいい少年」

第69夜「気のいい少年」 (二〇一九年四月十五日) 少年はいつもご機嫌だった。どんな時もニコニコと楽しそうな少年は、しばしば嫌がらせを受けた。あいつ、あんなに能天気にして、何の苦労も知らないに違いない。いいご身分だな。 実際その通りだったし、嫌…

第61夜「花と石」

第61夜「花と石」(二〇一九年四月七日) 人の話を聞いて綺麗な石を作ることができる少年がいた。話す人の手を片方の手で握りながらその人の話を聞くと、話が終わったとき、少年のもう片方の手には綺麗な石がひとつ握られていた。この石を握るとそのときの話…

第57夜「お元気そうで何よりです」

第57夜「お元気そうで何よりです」(二〇一九年四月三日) 「お元気そうで何よりです。」 はがきには、ただこれだけ書かれていた。何の変哲もない普通の白いはがきで、宛名面には男の住所、名前。左上に切手が貼られ、消印が捺されている。ただし差出人の住…

第44夜「添い寝」

貝がら千話 第44夜「添い寝」(二〇一九年三月二一日) 夜、眠っていると布団の中にいろいろなものが勝手に入ってくる。はじめは猫だった。 眠っているときに何かふわふわとした柔らかく暖かいものが肌に触れて、びっくりして飛び起きた。布団をめくると猫が…

第40夜「浄化する男」

貝がら千話 第40夜「浄化する男」(二〇一九年三月十七日) 男は自分のなかのさまざまなよくない性質を恥じ、それらをぜひとも改善したいと考えていた。そしてとてもよい方法を発見し、日々実践した。 その方法とは、赤信号の交差点を目を瞑って走り抜けると…

第39夜「腹話術師の友人」

第39夜「腹話術師の友人」(二〇一九年三月十六日) 腹話術師である男は、窮地に立たされていた。彼の呼び掛けに相棒が全く反応を返してよこさないのである。今までにも時折返事をしないことはあった。眠っていたりだとか、機嫌を損ねていたりだとか。しかし…

第30夜「アトリエの夜」

貝がら千話 第30夜「アトリエの夜」(二〇一九年三月七日) アトリエにいるときは、とにかく真っ暗にだけは気をつけなければならない。アトリエはわたしにとってどこよりも親密な、心安らぐ空間である。物心つくよりずっと前から、わたしはここで多くの時間…

貝がら千話について

貝がら千話について モノ・ホーミーについて 貝がら千話について 貝がら千話はモノ・ホーミーによる絵とお話のプロジェクトです。 まずはじめに一枚の絵を描き、それからお話をひとつ書くという方法で、2019年2月6日から2021年11月1日までの千日間、一日ひと…

第21夜「風景のなかの人々」

貝がら千話 第21夜「風景のなかの人々」 (二〇一九年二月二六日) 「そこで何をしていらっしゃるのですか。」「わたしですか。」「ええ、あなたです。どうもこんにちは。」「どうも。いや、何というわけではないのですが。」「そうですか、ずうっと、そちら…

第12夜「首絞め鳥の伝説」

貝がら千話 第12夜「首絞め鳥の伝説」(二〇一九年二月十七日) 動物園で二羽の鳥が死んだ。二羽は長い首がぐるぐるに絡まった状態でお互いを抱きかかえるようにして死んでいるところが発見された。動物園は、これを何者かによる悪質ないたずらではないかと…

第9夜「一三〇〇人の同僚と女王陛下の寝所」

貝がら千話 第9夜「一三〇〇人の同僚と女王陛下の寝所」(二〇一九年二月十四日) わたくしのつとめは女王陛下のお支度をお手伝いさせて頂くことでございます。毎朝まだ暗いうちに一三〇〇人の同僚と真っ暗なバスに揺られて、女王陛下の寝所へ向かいます。…

第3夜「旅の王子」

貝がら千話 第3夜「旅の王子」(二〇一九年二月八日) とりわけ王子を失望させたのは、人間というものが皆さして違わないということだった。 王子は幼少の頃より世界中、古今東西のあらゆる物語に親しんできたが、それらの物語によると世の中というものはど…

第2夜「駅で話しかけてきた老人の話」

貝がら千話 第2夜「駅で話しかけてきた老人の話」 (二〇一九年二月七日) あなた随分お疲れのようですね、と、突然話しかけてきた老人は何を断るでもなくホームのベンチに腰かけていたわたしの隣にどっかりと腰を降ろした。わたしは老人の問い掛けを無視し…

第1夜「あなたの種、売ります」

貝がら千話第1夜「あなたの種、売ります」 なるほど、あなたはご自分が何者なのかわからなくて困っておられる、そういうわけですね。ええ、わかります。もちろん記憶を失って名前がわからなくなってしまったわけでも、生まれた場所やご家族のことを忘れてし…