貝がら千話

モノ・ホーミーの貝がら千話

第12夜「首絞め鳥の伝説」

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貝がら千話 第12夜「首絞め鳥の伝説」(二〇一九年二月十七日)

 動物園で二羽の鳥が死んだ。二羽は長い首がぐるぐるに絡まった状態でお互いを抱きかかえるようにして死んでいるところが発見された。動物園は、これを何者かによる悪質ないたずらではないかと結論する会見を開いた。これに対し、動物愛護団体は園側が動物に適切な保護管理を行っていなかったとして糾弾した。
 二羽の鳥を解剖したところ、鳥は空腹状態にあったことが確認され、今度は鳥類の研究者が、今では都市部でも身近な存在であり、木の実や小さな虫しか食べないとされているこの鳥が、本来の生息地である熱帯雨林の奥地ではネズミなどの小動物を捕食しているという研究論文を発表した。その発表を受けて、民俗学者熱帯雨林に住む人々のあいだに語り伝えられている、二羽の鳥が世界を誕生させたという神話についての書籍を上梓した。この世界は間も無く破滅しその未来を知る者だけが新しい世界へ生まれ変わる、その始まりを二羽の鳥が告げるという予言をした新興宗教団体の代表の霊能者が脚光を浴び、別の霊能者は、この動物園は昔処刑場だった場所に建てられており、復活した死者の霊が今度は動物ではなく人間へ危害を加える可能性を指摘した。
 動物園が二羽の鳥をそのまま剥製にして公開したので、怖いもの見たさでたくさんの人が押しかけた。そのほとんどが若い恋人たちで、絡み合う鳥の剥製を眺めながら互いの指を絡ませていた。その様子を見たテレビドラマのプロデューサーは売れっ子放送作家に声をかけ、自身初監督となる映画を製作した。それは全編が緻密な3Dで描かれたアニメーション作品であった。
 核戦争が終わり、誰もいなくなった街で廃墟と化した動物園の、奇跡的に爆撃を逃れたドームに取り残されたつがいの鳥は、ラストシーンで脱走防止のために短く刈り取られた翼を懸命に羽ばたかせ汚染された外の世界へ飛び立とうとする。一羽が少し浮き上がるともう一羽がその体が沈まないよう支える。二羽の鳥が互いを交互に抱きかかえながら少しづつドームの天井に向かって舞い上がる様子は、まるでダンスのようだった。
 しかしドームの天井は固く閉ざされており、天井にぶつかった二羽は無慈悲にも力尽き、抱き合った状態のまま落下して死んでしまう。この映画は大成功を収め、二羽の鳥が抱き合うモチーフをあしらったグッズが人気を博した。押し合う人々が壊した建物の柵が客に怪我をさせる事故が起きて動物園は閉園し、その跡地に抱き合う二羽の鳥の銅像が建てられた。
 時が経ち、この像は今でもわかりやすい目印として知られているが、像の建てられた経緯を知る者はもはやほとんどいない。若者たちはこの銅像を「首絞め鳥」と呼び、約束を断りたいけれど直接伝えにくいとき、ここを待ち合わせに指定することで暗に気持ちを伝えるという使い方をされている。
(絵と文 モノ・ホーミー/二〇一九年二月十七日)