第44夜「添い寝」
夜、眠っていると布団の中にいろいろなものが勝手に入ってくる。はじめは猫だった。
眠っているときに何かふわふわとした柔らかく暖かいものが肌に触れて、びっくりして飛び起きた。布団をめくると猫がいた。おい、お前一体どこから来たんだ。にゃあ。勝手に入ってきたりして、驚くじゃないか。にゃあ。そこをどいてくれよ、一体どこの猫なんだい。にゃあ。全く埒があかなかった。どうしても、と言うのなら今晩は仕方ないけれど、朝になったらきちんと家に帰るんだぞ。にゃあ。
翌朝、目が覚めると布団の中に猫はいなかった。わたしは安堵した。
しかし、その夜眠っていると再びふわふわとした柔らかく暖かいものが肌に触れ、びっくりして飛び起きた。布団をめくると猫がいた。おい、お前また来たのか。にゃあ。勝手に入ってきたりして、困るよ。にゃあ。やはり埒があかなかった。
わたしは猫と眠り、朝になると猫はいなくなっていた。これが夜毎に繰り返され、気がついたら猫はいつの間にか増えて三匹になっていた。お前たち、本当に勘弁してくれよ。にゃあ。にゃあ。にゃあ。
しかし、これが猫のうちはまだよかったのだ。そのうち犬がやってきて、亀がやってきて、ハムスター、猿、インコ、金魚が来たときはさすがに面食らったが、わたしもだんだんと状況に慣れて、少し位のことでは驚かなくなっていった。
日によって何が来るかはまちまちで、猫が一匹の日もあれば、布団の中がぎゅうぎゅうになってしまうような日もあった。わたしはいつも、その日やってきたものたちと、ひとつの布団で眠った。いちいち布団を剥がして確認したりもしなくなった。どうせ来るものは来るし、朝になれば必ず姿を消しているのだから、そんなことより自分の睡眠が大事である。
起こってほしいことはなかなか起きないのに、こんなことがなければいいと思っているようなことに限って起きてしまうものである。わたしが眠っていると何者かがわたしの体を揺すり、叩き起こした。
何を悠長に寝ているんです。起きてください。四十代半ば位の男がわたしの横で、布団の上に座っている。どうしてこんなことをするんです、元に戻してください。何を言っているんですか、わたしは何もしてやいませんよ。ああ、ついにこの日が来てしまった。いつか人間が来るんじゃないかと思ったんだ。やめて欲しいのはわたしの方です。あなたがわたしの布団に勝手に入ってきたんじゃありませんか。
わたしはそんなことしません。あなたの布団に忍び込んで一体どうするって言うんです。する理由がありませんよ。どういうわけか知らないが、あなたが眠っているわたしをここに連れてきたんだ。
それこそ、そんなことをしてどうするって言うんです。わたしは毎夜いろいろなものが布団に入ってきて全く迷惑しているんです。
毎夜?勝手に?そうですよ。はじめは猫だったんです、それがどんどんいろんなものが来るようになって、ついにあなたが来たわけだ。ついにってね、来たくてきたわけじゃないんだ。こんなところに連れてこられてわたしだって迷惑してるんだから。
まあ、でも安心してくださいよ、朝にはいつも元通りなんだ。みんな消えてしまっている。きっとあなたも目が覚めるのは自分の布団の上ですから。朝になると勝手に元の場所に戻っているということか?いえ、確かめたわけじゃないけれど、また別の日にやって来ることもありますから、きっとそうなんじゃないかと思いますよ。だからあなたも眠ったほうがいい。夜更かししても仕方ないから。
何度も来ることになるということか、冗談じゃない。きちんとわけを調べて食い止めないと。
全くやっぱり思った通りだ、眠れやしない。いつか来るとは思ったが、これだから人間が来るのは嫌だったんだ。いつか?思った?わかったぞ、やっぱりあなたが呼んでいるんだ。そんなことを考えるから、こんなことになるんだ。何を無茶なことを言うんです。わたしにそんな力はありません。喚いてどうなるんです。ああ、ほら猫も目を覚ましてしまった。にゃあ。眠った方がいいですよ。体に毒だ。
あなたと?この布団で?他に何があるんです。さあ、わたしは眠りますから、あなたもそうしてください。
男ははじめぶつぶつと文句を言っていたが、最後には布団に潜り眠った。朝になると、やはり皆消えていた。この男はその後も時々布団の中にやってくる。今では慣れたもので、お互いに特に気にせずに眠りにつく。
さて今夜は何と眠ることになるのやら。
(絵と文 モノ・ホーミー/二〇一九年三月二一日)